サイバーパンク的な世界観とハードコアな文体が最高の小説です。独特な雰囲気が好きで、何度も読み返しました。藤沢周先生、大好きです。
一流作家はみんな独特の文体があると思うのですが、藤沢先生の文章はHIPHOP感があって本当にかっこいいですね。
内容は
彫物師の前にあらわれた十八歳の少女は言った。「彫ってください」。“刺青”に賭けられた生と死の美学をめぐりつつ、奈落の底へ落ちゆく人間たちの闇をえぐる芥川賞作家初の長篇。耽美かつ残酷そして超過激なハードコアロマン。
この小説の主人公である彫師は廃業するつもりですが、なかなかやめようとしません。
奇抜な図案を機械彫りで入れる若者、刺青を維持するために訪れる極道、そして、自分を犯す男に復讐するために入れる女。様々な客がやってきますが、この物語の中で彼ら(彼女ら)の刺青が完成することはありません。
刺青は一度入れてしまうと基本的には消せない、不可逆的な身体改造です。ですので、刺青は特別な思いがあって入れるもののはずですが、彫師はその思想性を最後まで否定し続けます。
さらに面白いのは刺青を入れに来る客たちにも、いまいちはっきりとした思想性がないところです。
「人をのみ渡し渡しておのが身は岸に上がらぬ渡し守かな」刺青は彫師の作品でもない、むしろ誰のものでもない。
刺青にオチ(意味)はない。それと同様にこの物語にもオチ(結末)がない。起承転結のない不思議な小説です。
夏の暑い日の夜、散らかった場所で読むのにお勧めの一冊です。ページ数136ページと短めの小説なのですぐに読み終わりますよ。
藤沢周先生の作品で他のお勧めは
- 『SATORI』(1995、河出書房新社)
- 『ソロ』(1996、講談社)
です。初期作品ばかりですが…。非常にとがってます。
『SATORI』はまるで幻覚の追体験のような不思議な読後感があります。
ご拝読ありがとうございました!
ちなみに藤沢先生の作品で映像化されているものもあります↓