今年始まったばかりですが、とりあえず今年ナンバーワン、暫定一位の映画です。内容は激重。私はネットフリックで視聴しましたが、見ててつらくて何度か一時停止しました。
あらすじは↓
ある日突然、まだ中学生の少女が死んでしまった。スーパーで万引きしようとしたところを店長に見つかり、追いかけられた末に車に轢かれたというのだ。娘のことなど無関心だった少女の父親は、せめて彼女の無実を証明しようと、店長を激しく追及するうちに、その姿も言動も恐るべきモンスターと化し、関係する人々全員を追い詰めていく。 『新聞記者』『MOTHER マザー』のスターサンズが、『ヒメアノ~ル』『愛しのアイリーン』などで、衝撃と才能を見せつけた監督・𠮷田恵輔とタッグを組み、現代の「罪」と「偽り」そして「赦し」を映し出す、この現代に生きるすべての人々の、誰の身にも起こりえる出来事に鋭く視線を向けた監督・𠮷田恵輔の「脚本」に俳優陣がケレン味なく体当たりした。©2021『空白』製作委員会
かつて、書店で万引きした少年が警察から走って逃走し、電車に轢かれ死亡するという事件がありました。その後、書店は誹謗中傷に遭い閉店。この映画はおそらくその事件をモデルにしていると思われます。
以下、ネタバレ込みで感想を書いていきます。まだご覧でない方は読まないでください。
目次
原因となる悪人の不在
この物語の特徴は、はっきりとわかる悪者がいないという点。以下箇条書きで。
- 父親は娘に無関心だけど、虐待しているわけではない
- スーパーの店長は実際に万引き被害に困っていた
- なくなった女子中学生は実際に万引きをしていた
- いじめはなかった。教師も女子中学生に強めに当たっていたが、指導の範疇だった
あえて言うなら事故が起こってからのマスコミ報道などは明らかに事態を悪化させていたので、明確な悪者。
ですが、事件そのものが起こったことはそれぞれの登場人物の「少しだけ至らなかった点」が招いています。
父親がひどい虐待をしていたなら娘が非行に走る(万引きする)ことが納得できてしまいます。しかし、劇中ではそのような描写はありません。
粗暴な口調や、元嫁がスマホを買い与えたことに激高したり、娘の話をきちんと聞かないなど問題点はたくさんありますが、暴力をふるうようなことはなかったと推察されます。
次に、スーパーの店長です。親から継いだスーパーで、万引き被害が実際にあって困っていた様子です。万引きしたとはいえ、いきなり腕をつかんで事務所に向かおうとするのはやや乱暴なやり方だったと思いますが、あそこまで責められるほどでしょうか。
世の中、生きていると様々な不運や悲劇があります。でも、フィクションのように明確な悪者がいなくて、だからこそやるせない。この映画を見終わった後に残る居心地の悪さはそのような現実的な部分に由来するのかもしれません。
被害者が加害者に。加害者が被害者に
まず、父親が娘の潔白を信じたいがあまり、モンスタークレーマーになってしまいます(被害者が加害者に)
スーパーの店長はマスコミに叩かれ、近隣住民からも攻撃され閉店に追い込まれます(加害者が被害者に)
少女を轢いた女性は父親が謝罪を受け入れてくれないことに絶望し、自殺してしまいます(加害者が被害者に、同時に父親が被害者から加害者に)
父親に謝罪を受け入れてもらえず自殺してしまった女性の母親は、そもそも事故に何ら関係ないにもかかわらず、それでも加害者として謝罪をし続けました。
それでも人生は続く
様々なことが重なって、立場が変わり、入れ替わり、解決もしない。それでも、時間は進み続けます。フィクションでは何らかの解決や見通しが描かれるものですが、この作品にはそういったものがほとんどありません。
ラストシーンは美しいものですが、問題はなにも解決しないままでした。見る人によってはもやもやするラストだと思いますが、すべてが白黒付くわけでない人生そのものって感じで私には非常に印象に残る映画でした。ぜひ。