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自転車の「ケンケン乗り」とは?歴史的背景と現代におけるメリット・注意点


 街中で、自転車に乗る際、サドルにまたがらずに片足をペダルに乗せ、もう片方の足で地面を数回蹴って進む姿を見かけることがあります。これは「ケンケン乗り(またはおばさん乗り)」と呼ばれる昔ながらの発進方法です。

 最近の若い人でこの乗り方をする人はあまりいませんが、なぜこのような乗り方をするのか?

 その具体的な動作や歴史的背景、そして現代におけるメリットと注意点について解説します。

 

 


1. 「ケンケン乗り」の具体的な動作

ケンケン乗りは、主に以下のような手順で行われる自転車の乗降方法です。

  • 発進時: 左足をペダルに乗せ、右足で地面を数回蹴って(ケンケンして)助走をつけます。勢いがついたところで、サドルの前に右足を通してまたがり、漕ぎ出します。

  • 停止時: ブレーキで完全に止まる前にサドルから腰を浮かせて右足を抜き、スピードが緩んだタイミングで地面に着地します。

 現代の若い世代にとっては馴染みの薄い方法ですが、ある一定以上の世代にとっては身体に染み付いた技術となっています。


2. 現代の高齢者にとってのメリット

 安全指導などでは「サドルに座ってから漕ぎ出しましょう」と教えられますが、高齢者の方にとってはケンケン乗りの方が理にかなっている側面もあります。

① 漕ぎ出しのふらつきを抑える

 自転車が最も不安定になるのは、発進時の「速度がゼロから低速になる瞬間」です。サドルに座った状態からの漕ぎ出しは、筋力が低下している高齢者にとって大きな脚力が必要となり、最初の一歩で十分なスピードが出せず、横にふらつく原因になります。

② ケンケンで初速を確保する

 一方、ケンケン乗りは自分の足で直接地面を蹴るため、体重を利用して推進力を生み出すことができます。自転車は「ある程度の速度が出ている方が安定する」という特性があるため、あらかじめ助走で速度を上げてからまたがる方が、結果的にふらつかずに安定して乗ることができます。無駄な動きに見えますが、いちおう合理性はあるんです。


3. ケンケン乗りの歴史的背景

歴史を遡ると、この乗り方はかつて正当な方法とされていた時代がありました。

だるま自転車に乗るための必須技術

 19世紀のヨーロッパで誕生した初期の自転車は、前輪が非常に大きい「だるま自転車(オーディナリー型)」でした。サドルの位置が高く、止まった状態からまたがることは不可能だったため、後ろにあるステップに足をかけ、ケンケンをして助走をつけてから飛び乗っていました。これがケンケン乗りの原型です。

 1899年(明治32年)に日本で発行された教本『自転車乗用速成術』にも、地面を蹴ってから徐々に進める方法が記載されており、当時は正しい乗り方の一つとして推奨されていました。

昭和30年代に見られた「三角乗り」

 ケンケン乗りよりもさらに上の世代(昭和30年代頃)には、「三角乗り」という方法もありました。 当時は子供用の自転車が普及しておらず、子供たちは大人用の実用車に乗るしかありませんでした。しかし、サドルに座ると足が届かないため、フレームの三角形の隙間に右足を差し込み、体を傾けた状態で立ち漕ぎをするスタイルが当時の子供たちの間で使われていました。


4. なぜ現代では見かけなくなったのか?

この乗り方が若い世代に引き継がれなかった理由は、主に2つあります。

  • 自転車の進化: 現代のママチャリは、またぎやすい「U字型(低床)フレーム」が採用されたり、車体の軽量化に加えて、サドルも低く調整できるようになりました。これにより、助走をつけなくても安全に発進できるようになりました。

  • 交通安全教育の始まり: 昭和40年代の交通戦争期、事故防止のために小学校などで交通安全教室が開かれるようになりました。そこで「停止した状態からまたがって発進する」という指導が徹底されたため、ケンケン乗りは次第に廃れていきました。


5. 現代における注意点とジレンマ

 高齢者にとってメリットもあるケンケン乗りですが、現代の交通事情や新しい技術との間にはリスクも存在します。

  • 安全面でのリスク: ケンケンしている間は視線が足元に落ちがちになり、視野が狭くなります。また、とっさの飛び出しに対して急ブレーキがかけにくいというデメリットもあります。

  • 電動アシスト自転車との相性の悪さ: 近年普及している電動アシスト自転車でケンケン乗りをすると、体全体がサドルに乗り切っていない不安定な状態で強いアシストモーターが作動してしまい、急発進による転倒や暴走を招く恐れがあり危険です。


まとめ

 高齢者の方を中心に何気なく行っている「ケンケン乗り」には、19世紀から続く自転車の歴史的な背景と、筋力低下を補って車体を安定させるという生活の知恵が詰まっています。

 現代の安全基準や電動アシスト自転車の普及によって、今後はさらに見かける機会が減っていくと考えられますが、かつての時代背景と合理性から生まれた、一つの自転車文化の名残と言えます。

 

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