閲覧停止・ライブラリ削除・返金義務をめぐる最新事情
2025年7月、人気イラストレーター・がおう氏の未成年淫行事件が報じられ、KADOKAWAが氏の関与作品を一斉に回収・配信停止とする異例の対応を発表しました。
電子書籍も例外ではなく、すでにAmazonなどでは購入ページが削除され、出版社公式サイトからも原作リンクが姿を消しました。
こうした事態を目の当たりにして、次のような疑問を抱いた人も多いのではないでしょうか?
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「すでに購入済みの電子書籍って、これからも読めるの?」
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「勝手に読めなくされたら、返金してもらえるの?」
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「電子書籍って本当に“自分のもの”なの?」
今回は、電子書籍をとり巻く「閲覧停止」や「ライブラリ削除」といった問題について、法律的な側面や過去の実例も交えて掘り下げます。
- 閲覧停止・ライブラリ削除・返金義務をめぐる最新事情
- 電子書籍は「所有」ではなく「使用権」
- 閲覧停止は実際に起きている
- 法的に返金は「義務」なのか?
- 返金や補償はどうやって求める?
- 読者ができる自衛策とは?
- 最後に:電子書籍の未来と責任
電子書籍は「所有」ではなく「使用権」
まず大前提として、電子書籍は紙の本のように「所有」するものではなく、プラットフォームから「閲覧する権利(使用権)」を一時的に借りている状態です。
たとえばAmazon Kindleの利用規約では、こう明記されています。
ユーザーは、本コンテンツを恒久的に所有するのではなく、当社が提供する限りにおいて非独占的に閲覧できるライセンスを取得します。
つまり、あなたが「購入」したと思っている電子書籍は、「読める権利」を借りているに過ぎません。そしてその権利は、ストアや出版社の判断で一方的に取り消されることもありうるのです。
閲覧停止は実際に起きている
「そんなことあるの?」と思うかもしれませんが、すでに過去には閲覧停止=ライブラリから削除された事例がいくつも存在しています。
● Kindle『1984』削除事件(2009年)
Amazonが著作権処理ミスにより、ジョージ・オーウェルの『1984』と『動物農場』を購入者のKindle端末から一方的に削除。大きな社会問題となり、返金と謝罪に追い込まれました。
● 成人向け作品(DLsite/DMMなど)
児童ポルノ禁止法や倫理審査に抵触する恐れがあるとして、過去に購入された作品が利用者のライブラリから削除され、閲覧不可能に。希望者にはポイント返還や返金対応が行われた事例もあります。
● ストア閉鎖による読書権の消失
小規模な電子書籍ストアや漫画アプリが撤退・閉鎖した際、購入済み作品が読めなくなったという苦情が相次ぎました。
法的に返金は「義務」なのか?
この点は多くの人が気になるところです。
結論から言えば、電子書籍が一方的に読めなくなった場合、法的には返金義務が発生する可能性が高いです。根拠となるのは以下の法律です。
● 民法 第415条(債務不履行)
販売者(電子書籍ストア)は「閲覧可能な状態を提供する契約」を履行しなければならない。読めなくなった場合、契約不履行とされる可能性がある。
● 消費者契約法 第9条
「一度買っても閲覧停止になっても返金しない」とする利用規約は、消費者に一方的に不利な条項として無効になる可能性がある。
つまり、「あなたのライブラリから削除されたが、返金はしません」という対応は、法律上は通用しない場合があるのです。
返金や補償はどうやって求める?
実際に閲覧できなくなったとき、以下のように対応するとよいでしょう。
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ストアのカスタマーサポートに問い合わせ
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「購入済みにもかかわらず読めなくなった」旨を明記
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「契約不履行に当たる可能性がある」「消費者契約法上問題がある」と丁寧に伝える
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返答が不誠実であれば
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消費生活センター(国民生活センター)へ相談
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弁護士を通じて通知文を送る手段も
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多くのケースでは、返金や代替措置(ポイント補償など)で解決しています。
状況 | 法的評価 | 返金義務 |
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販売停止だけ(閲覧可能) | 問題なし | 返金なしが通常 |
閲覧停止された(読めなくなった) | 債務不履行・契約不履行 | 返金義務あり得る |
内容改変(イラスト削除など) | 契約内容の変更 | 一部返金・交渉余地あり |
規約で「返金しません」と書いてある | 消費者契約法で無効の可能性 | 論拠になる |
読者ができる自衛策とは?
電子書籍は便利ですが、上述のようにストアや著作者の都合で突然読めなくなるリスクがあることも事実です。以下の対策を取っておくと安心です。
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端末へのダウンロード(オフライン保存):一部の削除では読める場合もあり
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DRMフリーの電子書籍を購入:Boothや一部出版社が提供(PDF/EPUB形式)
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ストアの健全性や継続性を見極めて使う:信頼できる大手プラットフォームを選ぶ
最後に:電子書籍の未来と責任
「電子書籍は便利で安い。でも、いつか読めなくなるかもしれない。」
この不安定さは、技術の問題ではなく制度設計と契約の問題です。作者の不祥事や出版社の判断で作品が削除されるなら、せめて読者が支払った金銭と信頼は守られるべきではないでしょうか。
「本を買ったのに読めない」という矛盾が、これ以上繰り返されないよう、業界全体の仕組みの見直しが求められています。