バック拡げという工具をご存知でしょうか?自転車業界の人間なら皆知っている工具だと思いますが、こんな感じの工具です↓
自転車のフレーム後部を押し広げ、その隙間からタイヤやチューブの交換を行うための専用工具ですね。
フレームに固着したハブの取り外しや、ホイールをフレームに装着したままでのタイヤ、チューブの入れ替えなど、フレームを一時的に拡張させる工具です。
注意:アルミフレーム、電動車・ベルト車・外装変速機の自転車には使用しないでください。
また、小径車などのチェーンステーが短い自転車には使用しないでください。
フレームが破損する恐れがあります。
作業時間短縮のために使う自転車屋もあるのですが、私は使いません。なぜなら、フレームが広がって戻らなくなるから、です。
金属を曲げて戻してを繰り返すとどうなるでしょう?破断しますよね。まあ、安物であろうと自転車くらいのパイプはなかなか破断しませんが、そういうリスクがあるということです。
自転車屋が楽をしたい(作業時間短縮)がために、大事な自転車をキズモノにされる。悲しいことです。
私はアルミフレームの自転車に使用され、クラックが入ってしまった自転車も見てきましたし、20年ものの自転車に使用してバックフォークを割ったケースも直に見ました。
バック拡げ、だめ、ぜったい。
そもそもそんなに時短にならない
タイヤ交換をバック拡げを使用して行うとだいたい10分程度。車輪を外してタイヤ交換しても15分程度。私の体感的には2,3分変わる程度だと思います。
2,3分短縮のためにお客さんの自転車に破損のリスクを負わせるのか?そもそもそんなに忙しいのか?とも思いますが、修理作業に慣れていないスタッフが多いチェーン店などでは大きな時短になるのかもしれません。
車輪を外さないと分からないこともある
専門的な話は省きますが、車輪を外さないと分からない不具合もあれば、できない作業もあります。バック拡げを使えばそれらは全部行えません。
バック拡げを使うと大切な作業が出来なくなります。
(タイヤ交換は、点検、整備、修理の貴重な機会です)・ハブ(車輪の回転軸です)のチェックやグリスアップなど、ベアリングまわりの点検、整備、修理がいっさい出来ない
・リムやスポークの状態のチェック、スポークの交換、リムの振れ取り、スポークテンションのチェック
(折りたたみ式の振れ取り台、よく使うサイズの補修用スポーク等、を出張修理号に常備しています)
・チェーン調整 (片方しかハブナットを外さないので、出来ない)
チェーン店などは利益や効率重視しないと社員さんたちを食わせていけないんでしょうけど、そのためにお客さんへリスクを押し付けることに、私はなんともいやな気分になるのです。私がバック拡げを使わない理由にはそんな気分の問題もあるのかもしれません。
自分の利益のために他人に損をさせることは、おおげさなんですが、人から奪うことに慣れてしまうことなんじゃないかと思います。きっと悪い人間になる。
いきなり精神論かよ、と思われたかもしれませんが、私は年間300日自転車屋として働いてるわけで、使っていて気分の良くない工具を使い続けるのは絶対精神に良くないですよね?
ご拝読ありがとうございました。最後にもう一度。バック拡げ、だめ、ぜったい。
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