しょぼ輪

しょぼい30代自転車屋のブログ

腕がよければお客さんが来るわけではないという話:惜しまれて引退した自転車屋さん

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 去年の7月くらいでしょうか、私の店の近所の自転車店が閉店しました。

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 駅からはやや離れた住宅街の一角にひっそりと佇み、開いている時間は数時間。営業しているのか?と思わせる雰囲気。それでも、店内にはいつも修理預かりとおぼしき自転車やバイクが並び、売る気があるのかわからない日焼けして読みにくくなった値札のついた古い自転車が2,3台。

 

 郷愁をさそうタイムスリップ感がエモーショナルで、自分もこんな自転車屋になりたいと思いながらたまに店の前を通っていました。

 

 店主さんは70歳を越え、約30年その場所で営業されましたが、体力的につらくなり引退することを決めたそうです。そういえば修理に来るお客さんの数が増えたなと思っていましたが、そのお店の閉店がきっかけだったようです。

 

めっちゃいい人だった。

 というのもその店主さんは引退するにあたり、常連のお客さんに「閉店するから今後は修理などは最近できたあの店に行ってやってくれ」と言ってくれていたそうです。

 複数のお客さんにその話を聞かされ、思いました。

 

 めっちゃいい人やん…。 

 

 そして、お客さんもいい人ばかりでした。空気入れのたびにお金くれる人もいましたし、値段に文句を言う人もいませんでした。

 まさに自営業者がたどり着きたい境地に達していました。常連との信頼関係をしっかり築き、価格でもめない。さすが創業30年以上の実績!

でも、腕が悪かった…。

 店主さんのことを悪く言うお客さんは一人もいませんでした。みな一様に「閉店して残念」「とてもいい人だった」「おもしろいおじさんだった」と言います。

 

 しかし、店主さんの修理の腕はよくありませんでした

 パンク修理パッチがきちんと貼れていなかったり、ナットの締め忘れ、などなど、近所のお店なので店主さんが手掛けた自転車を見る機会が多くあったので「30年やってこれかよ」などと不敬なことを思っていました。 

 ですが、顧客満足度は割と高かったですし、長く営業していたということは黒字だったのでしょう。

 

 インターネットの時代、いいものは自然と口コミによって売れ、悪いものは自然と駆逐されるなんて言われますが、本当にそうでしょうか。

 私はむしろ全く逆だと思っています。アマゾンレビューはサクラが蔓延し、ちょっとしたミスで良店のグーグルレビューが荒らされる時代です。個人店が細々と生きていくためにはグローバルよりもローカルに徹することこそが今後重要になってくるはずです。

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 世の中、いいものを出していれば売れる、お客さんは分かってくれると思いがちですが、そうではなく、地域に根差し、自身のキャラクターを含めファンになってもらうことこそが何よりも大切だと私は思います。

 もちろん、最低限の品質や技術があることは大前提ではありますが。

それでも、すごいお店だった。 

 30年以上同じ場所で営業を続け、惜しまれつつ閉店というのはなかなかできることではありません。

 

 私もこれから30年以上もモチベーションを保つことができるだろうか、とか、入居しているテナントビルもいつかは立ち退きになるかも、とか、心配の種は尽きないのです。この種の不安とも戦い続けてこられたのだと思うと尊敬しかないです。

 

 ご拝読ありがとうございました。